ボイトレ思考

話慣れた人とプロの違い 寝ても覚めてもボイトレ思考ー第64夜ー

 

よどみなく話しているようで中身がない話をする人

先日、市が行うイベントの参加者説明会に行ってまいりました。
市役所で行われたその説明会は、ただ先に配布されたマニュアルをマイクを持った人が読むだけの場。正直これが説明会なら開かなくてもいいんじゃないの?という内容でした。今回はそこから得た気付きをお話します。

耳にも脳にも優しくない余分な言葉

説明会の冒頭は、市役所の担当の方のご挨拶。手短に終わって本題のイベントを仕切る外部委託先である会社の担当の方からの詳細説明に。任されていたのは若い担当の方。資料を読みだして最初の5分で「えー」が50回を超え、「あのー」が10回程度。なぜそこにそれ?という「はい」が3回。正の字を書いて数えていましたが、5分を過ぎたところで最後まで数えるのを諦めました。

担当の方は右手にマイク、そして机の上の資料に目線を落としたままで参加者の方をあまり見ることもありません。ただただ、我々に事前配布されていた読み上げているだけ。そこには「例えばこの場合~」などの注釈は皆無。分かりにくい文言じゃないかなぁ…と思うところも、ひたすらザクザクと読んでいきます。無数の「えー」を挟みながら。

聴いている方は何気なく聞き流しているようで実際には脳のフィルターに「えー」「あのー」(話の『ケバ』と言います)が溜まって目詰まりを起こします。それが聴き終わった後の「聴いているだけなのに疲れた…」という気分をもたらす原因にもなります。また「喋る仕事」をしている人はそのケバが気になって仕方がなく、内容が一切入ってこないなんていう事態にもなるのです。

マニュアルを読むだけ、それが一番難しい

マニュアルを読みあげるだけ、まさに「誰にでもできる簡単なお仕事です!」と書いてある求人広告のようなお仕事です。ところが実際にはそれが一番難しい!ただ読むだけ…であれば簡単じゃないの?と思われるかもしれません。ところが「ただ読むだけで相手に内容を分かるように伝える」のは、その読む資料がよほど良い出来でない限り達成できないものなのです。

書いてあることをそのまま一言一句間違えずに読めたからと言ってそれは「上手に読めた」わけではなく、ただよどみなく読んだだけ。聴衆からすると、そのマニュアルに書いてある行間部分、いわゆる注釈的なものを説明会では期待をしています。

例えば「○○は禁止になります」という文言に「今までの例として○○が禁止なので◎◎なら大丈夫だろう、と判断された方がいらっしゃいますが、それも禁止のうちに入ります」等。Q&Aを見れば分かる!のではなく、説明の時点で「あれ?これっていけるの?いけないの?」という疑問を出来るだけ解消しておく。

読んで、質問もあまりなかったからいいよね?
と、担当の方はお思いかもしれませんが、正直「次から同じイベントの際は説明会来なくてもいいよね」と思われているだけです。それに気づける方が間違いなくプレゼン上手になる可能性が高いと言えるでしょう。

立て板に水は本当に素晴らしい?

よく「立て板に水のように話されますね!」と褒め言葉で使われます。クリモトの場合は「立て板にナイアガラ」と言われることもありますので恐らく勢いがえげつないのでしょう(笑)よどみなく流れるように話す、というのは非常に魅力的に映ります。同じ読むだけであればあんな風になりたい…!という場合もあるでしょう。ただ、その人の話を30分後にもう一度思い出せるかどうか、そこが大きな問題になります。

すらすらと読まれて「分かりやすかったー!」という感想を抱いたとして、果たしてその内容を後で思い出せるかどうか。これは講演会などを聞いた後でも同じです。その場では高揚して「凄かった!感動した!!」と思っても後々何も自分の中に残っていない。確かにあまり自分の中で響かない講演や説明であった場合は覚えられなくて当然です。ところが、感動した!はずなのに何故か後日「どんな話だった?」と聞かれて説明ができない。そんな事ありませんか?

いや、確かに凄かったし感動したんだよ!けれど、えーっとなんだったっけな…となるのは勿体ない!だからこそ、何か一つでも相手の脳内に残る話をする。内容は楽しいものでも、悲しいものでも、面白いものでも、蘊蓄的なものでも構いません。どこかに「何に感動したのか」を思い出せるきっかけを残す。立て板に水では板が渇けばそれで終了ですが、そこに引っ掛かる小石を流して板に何かしらの跡を残す。それこそがスピーチの醍醐味なのではないでしょうか。

相手の心に残すために、工夫するべきもの

相手の心にあなたの話の印象を残すために色々な工夫ができます。突然歌うのもアリですし、突然泣くのも有効でしょう。ただTPOを弁えなければただの痛い人になります。ではどうするのか?

説明上手と言われている人の中には、とにかく合間なくずーーーーーっと同じテンポで話し続けるという方がいらっしゃいます。もしあなたの声がとても心地よい音であれば、それは聴き手にとっては最高の子守唄。そんな事態を回避するためにするべきこと、それは「問いかけ」になります。聴き手に対して「どうですか?」「そう思いませんか?」「どう思いますか?」「こういう場合はどうでしょう?」という問いかけ挟むことで聴き手の意識を途切れさせることなく話し手に向けることが出来るでしょう。

ただ、それはよくある話し方本にも出ている王道のテクニック。本当に必要なのは「テンポと音量の調整」になります。

速く話すところ(センテンス)、ゆっくり話すところ、声を張るところ、小声で話すところ。それらを組み合わせて「速く大きく」「速く小さく」「ゆっくり大きく」「ゆっくり小さく」「だんだん速く(ゆっくり)大きく(小さく)」等、話の内容に合わせて組み替えて行く事であなたの話は相手の脳内により強く残るでしょう。プロはそれを自然に行うことが出来るからこそ、プロなのです。

本当に必要なのは説明をすること?それとも理解を得られること?

スラスラ話せるけれど印象に残らないんです…という話慣れた方は、まず「どのようにすれば相手の印象により残り、質問が浮かんでくる内容にするか」を考えましょう。たどたどしくても素晴らしい内容の、そして印象に残るお話を伺う機会はたくさんあります。

よどみなく話ができたから成功!ではなく、つっかかりながらでも聴き手の印象に残る話ができた!の方がよほど効果は期待できますよね。ただし、やたらとケバを入れないように常に自分が発する言葉に注意を向けておくことが必須です。

【セミナー】あなたの声を最大限に活かす、伝わる声にする方法を教えます

関連記事

TOP